「世間」とは何か (講談社現代新書)作者: 阿部謹也出版社/メーカー: 講談社発売日: 1995/07/20メディア: 新書購入: 35人 クリック: 239回この商品を含むブログ (95件) を見る

日本独自の概念として古来から人々の会話にしばしば登場する「世間」という言葉がどのような背景と意味を持って今日まで保存されてきたのかについて、数種の有名な文学作品などを取り上げながら説明している。万葉集に始まり、吉田兼好親鸞井原西鶴夏目漱石永井荷風らの作品で垣間見ることの出来る世間は、基本的には今と変わらないというのが結論のようだ。
かつて狭い社会で生きていた貴族や僧侶達が、世の無常に悲哀や挫折を感じ、これに対する恐れが増大するに従って、「自分の身を寄せてきた安定」への感情的依存が大きくなり、世間という概念が生まれてきたという。
この本で世間に関して分析らしきものがなされているのはごく一部で、むしろ先に挙げた歴史上の人物達が、世間を相対化してどのように生きていたかという点についての観察がメインになっている。著者が世間を相対化する為にこれらの人物を挙げるのはいいとしても、あまりにも文学作品の解説ばかりで、中盤以降はほとんど流し読みする程度でよいと思った。
最終的には、世間をある程度相対化することには成功しているが、そこから先の話はまったくない、という印象。