市場主義の終焉―日本経済をどうするのか (岩波新書)作者: 佐和隆光出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2000/10/20メディア: 新書 クリック: 7回この商品を含むブログ (12件) を見る

20世紀の日本の動きをまとめる上でわかり易い本。日本版「第三の道」を模索する為に、基本的な流れをおさらいできる。ここにおける解説は極めて妥当なもので、理解しやすい。
著者は、日本のシステムは工業化社会においては見事に適合したために大きな経済成長を遂げることが出来たが、それが大いなる安定を保証するものであるが故に、ポスト工業化時代には対応できていないと指摘する。そして成熟社会においてもはや持続的な経済の拡大を望めない以上、システムの大きな改変が要求されているのだと言う。
ただし、よく言われるように日本のシステムをそのままアメリカナイズすることに対しては著者は全く賛同していない。完全雇用を良しとする風習は、能力競争に敗れ去ることで鬱積する精神的なコストを縮小させ、これにあてる再配分という社会的なコストも小さくすることが出来る。一人勝ち社会を回避する為にも、日本型社会システムの良さをもきちんと認めた上での改変が望ましいとする。
その後の改変方法については、ギデンズの第三の道をほぼ踏襲したものであるため、知っている人間にとってはそれほど新鮮味は感じられない。第三の道の入門書としては機能しうると思う。
ところで著者は僕が通う大学の教授でもあるのだが、この本の中で著者は折に触れて今の国立大学の民営化の流れに異論を唱えている。そのためにこの本を書いたのではないかと思わせるほどの強い語気である。
著者は日本流の古い制度と慣行が、日本の大学の研究業績を著しく貶めているとして、改革の必要性は認めている。そして、経済効率を追い求めれば非経済的な研究が「排除」され、他機関による評価を重視すればその裁量がまた「排除」を生み出すとして、ここでも両者を止揚する第三の道が必要なのだと説く。
そのための重要な前提として、「有用性」のみで研究の価値判断をしてはならないこと、学問の自由を侵してはならないこと、評価するのであれば組織としての大学ではなく個々の研究者への国際的な学会レベルでの研究業績による評価をすべきであること、研究に対してもリスクを負う者に対してポジティブな再配分をすること、業績主義を徹底すること、学生による授業評価をすること、外国人教官の採用を増やすこと、を挙げている。
国立大学は法人化され、少しずつ変わりつつある。今のところどうも僕としては歓迎しがたい方向に向かっている気がする。学問に携わる者の端くれとしても、今後を注視しなければ。