初心忘るるべからず。

今日は先輩方や助手の先生に参加してもらって、僕のテーマ(仮)どないやねんみたいな話を延々としていた。
僕が教授からテーマを提示された時に感じた違和感は一体なんだったのか。その核心が自分でわからぬまま皆に相談してもらった為に、話がなかなか終わらなかった。結局9時くらいまで喋って、それでも結論が出ずに家に帰っている途中で、皆からもらった色んな言葉を反芻しつつどんどん自分の内面の深いところまで潜っていって、ようやく答えが出た。皆の様々な言葉を受け取ってもまだ自分の違和感の核心について納得できないという事実が、僕をそこまで到達させることができた。来週、皆にお礼を言わなければ。
そもそも僕がこの研究室を選んだ理由の中で重要だったのは、木質バイオマスをエネルギーや工業原料として有効利用しようとしていることと、教授の人格に惹かれるものがあったから、というかなり単純なものだった。そして僕如き新4回生の持つ浅薄な知識などで、どの研究テーマが良いか悪いかなど判断できるはずも無いし、何よりもこの3年もしくは5年の研究は、研究テーマがどうのこうのいうよりもむしろ自分のこれからの人生に備えての勉強のため。だからこの研究室で与えられたテーマなら基本的には何でもいい、というスタンスだった(このスタンスには教授や助手の先生もとても納得してくれて、だから僕が「ちょっと考えさせて」と言ったことに少し驚いたのかもしれない。)。たった一つ条件があるとすればそれは、この研究室で扱っている或る興味深い手法を取り扱ってみたい、というものだけ。今回提示されたテーマは、その条件はクリアしていた。
では何故僕がOKと即答しなかったのか、いやできなかったのか。最も表層の意味ではそれは、提示されたテーマが僕の予想とはある意味において全然違うものだったからだ。この「ある意味」については、研究テーマに関わることなのでここではあまり明らかにすることは出来ないが、僕が昨年この教授の講義内容に対して抱いた大きな興味の一要素に関わるものだ。実は教授は、今年から新しい大きなテーマを手がけようとしていたのだ。そのテーマに関わる最初の研究が僕に与えられた、というわけだ。
さて、この予想とのギャップが僕に何をもたらしたか。それは、「思考開始」だった。本来は「何でもいい」が原的な価値観であったはずなのに、このギャップによる一時的忘却によって逆に僕は、提示されたテーマのどの点が「いい」のかを考えてしまうという、本末転倒な思考の迷路を歩むことになってしまった。上述の通り僕がその本当の「よさ」など確信を持って言えるはずも無い訳で、だから出口が全く見えない、よく理由の分からない重い気持ちになっていたのだ。
とまあここまではすぐに考えたし、このこと自体はどうもさしたることではないようだった。教授と話している時もこのことについてはおぼろげながらも自覚していたし、先輩からも指摘された。しかしそれでも僕の違和感は消えない。何故か。この理由にたどり着くのに相当の時間を要した。
結論からいうと、最も僕を悩ませたものの正体は、何故僕がそのようなことを考えるようになってしまったのか、ということだった。研究室で皆と話している時に容易に拭い切れないと感じていた違和感は、違和感そのものというよりもむしろ、研究テーマに違和感を持つ自分に対する違和感だったのだ。
問題に気付くと、答えを導くのにあまり時間はかからなかった。要するに僕は、テーマに本気で打ち込むだけのやる気が欲しかっただけなのだ。もう少し厳密言えば、テーマに対する違和感は単なる予想とのギャップであっただけであるにも拘らず、僕はその違和感故に「何でもいい」とアッサリと思えなかった自分に、やる気が足りないのではないかと感じてしまったのだった。だからやる気を蓄える為に自分に動機付けを与えようと必死になっていたわけだ。
このカラクリに気づいた時点で、全ての悩みは解消した。月曜に早速教授にOKと伝えようっと。今はとにかく早く実験がしたい。