テロ後―世界はどう変わったか (岩波新書)作者: 藤原帰一出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2002/02/20メディア: 新書 クリック: 16回この商品を含むブログ (9件) を見る

9.11テロからアフガン空爆に至るまでの経緯について、様々な論者たちの視点をまとめた本。対テロ戦争という題目の下で急速にアメリカの、そして世界の空気が変わっていく様に対して、「本当にこれでいいのか」という点ではどの論者も一貫している。ただ読み物としては面白いのだが、それほどに深い内容が込められているというものでもない。一つ一つの分量が少ないので、仕方ないと言えば仕方ないが。
一番面白かった大澤真幸の文について。
大澤は、アメリカによるアフガン爆撃が、ナチスによるユダヤ人摘発と同様に、「無の空間を確保する為の攻撃」だったのではないかという。完全なセキュリティへの希求が、巷に溢れかえるテロリスト、という構図を生み出している、と大澤は主張する。
さらに大澤は、アメリカの一連の行動は、テロリスト達がテロを「聖戦」と見做しているのと同じような道を辿っており、それは「崇高なる殉死」に憧憬を抱くアメリカ人の内的な理由によるものだとしている。
同じことはテロリスト側についても言うことができ、彼らの主張そのものはアメリカ流の資本主義に対抗するものであるが、しかし彼らの資金調達法や組織構成などは資本主義そのものを体現しているのだ、としている。
以上のような理由から、9.11テロの図式は相異なる二つの勢力が戦う単純な「文明の衝突」ではなく、「文明の外的かつ内的な衝突」である、と大澤は言う。そして、このような近代文明が抱えた葛藤により、自由と民主主義を確保する為であるはずのセキュリティへの希求が自由と民主主義を崩壊させようとしている、というのが大澤の最も力点を置く主張だ。そして最後に大澤は、徹底的な民主主義を追い求めることがセキュリティをも担保するということを我々は知るべきだ、と提言してこの文章を締めくくっている。
これはもはや成熟した社会をもつ先進国の全てに当てはまる話で、日本も例外ではない。優先順位の転換は、コミュニティの崩壊とともに、想像力の欠如からも来ているのではないだろうか。そう考えると、そうは簡単に大澤の言うような処方箋を体現するのは非常に難しい気がしてならない。すくなくとも当分は。