Peace Of Mind (通常盤)アーティスト: 稲葉浩志,Inaba Koshi,Terachi Hideyuki,Tokunaga Akihito,Ohga Yoshinobu,Terashima Ryouichi出版社/メーカー: バーミリオンレコード発売日: 2004/09/15メディア: CD購入: 1人 クリック: 16回この商品を含むブログ (30件) を見る

これまで僕が稲葉浩志というアーティストに唯一不満を持っていたとすれば、それは歌詞の独りよがりな性質について。
恋愛や友情について書く彼の歌詞は素晴らしいが、それはあくまで共感の対象としての歌詞。言ってみれば多くの聴き手が主体として入り込める歌詞。それはそれで歌詞の一つの世界としては素晴らしいんですが、やはり僕が常に欲していたものの一つは、聴き手がどこまで入っても主体には成り得ないのだが、その歌詞の「主人公」に心を奪われるような歌詞。そしてもう一つは稲葉浩志という人間が聴き手に発するメッセージ。
前者の方は、聴き終わった時に、まるで心理描写に長けた映画を見終わった時に感じるような大きな脱力感が聴き手を襲う位のものを、この人ならきっと書けるし、そして歌えると思っていました。
今回のソロアルバム「Peace Of Mind」は発売前から「歌詞入魂」の一作であることは聞き及んでいましたが、実際に聴いてみるとその内容の濃さに驚かざるを得ませんでした。終わりの二つの曲「透明人間」と「あの命この命」。
特に「透明人間」の方には、これを自分が待ち焦がれていたことも忘れ去らせてくれるような途方もない脱力感を味あわせてくれました。明らかに現代の、少年犯罪に関する歌詞。ところどころに散りばめられたシンボル的な単語のせいで、頭の中に鮮明な映像が浮かび上がってきます。主人公が最後に誰かを殺したのか自殺したのかは判断できませんけど、かつてないほど悲痛な稲葉の歌声とサラスのギターの音色、そして一気に訪れる静寂という展開がそこで何かが起こったことを連想させます。
最後のサビからこのあたりにかけては何度聞いても鳥肌が立ち、イタイという感覚が心に残ります。しばらくこの曲の中毒になりそうだ。こんなんライブで聴いたら倒れるかも。
「あの命この命」は、ギター弾き語りですが、これは今までになかった反戦ソング。時に主体がイラクにいる外国の軍の兵士に移るところが素晴らしい。