情報操作のトリック その歴史と方法 (講談社現代新書)作者: 川上和久出版社/メーカー: 講談社発売日: 1994/05/17メディア: 新書購入: 1人 クリック: 31回この商品を含むブログ (19件) を見る

何気なく買った本が意外と面白かったというのはよくある話。この本もその一つ。
あとがきによると、この本は明治大学法学部での講義をベースとして書き起こしたもので、社会の中での情報を様々な角度からとらえ情報の分析を通して自分自身の問題意識を高めてもらうことが目的であるという。著者の川上氏は社会心理学を専攻していて、その社会的な目線から、歴史上の政治的変動およびその構図を情報情報操作という観点から分析し、さらに現在の世界情勢を読み解くという活動でマスコミでの露出もあり、僕も以前から存じ上げていた。
この本の締めくくりで著者は、益々メディアが多様化し社会が複合化している現在、あらゆる権力者・情報の送り手によって我々が情報操作をされ得る環境にあり、そのため「情報適応教育」を体系的におこなうことがこれから肝要になってくると主張している。この本は前述の通り大学の講義的なものであるため、あまり読者に深い思考を求めるものではなく、情報操作の基礎知識、歴史的文脈における情報操作とその効果の理解、現代政治におけるメディアと情報操作の関わりなどといった知識をやや浅く網羅するものとなっている。
面白いのは情報操作の歴史(特に戦争)の部分である。情報操作による自軍の士気鼓舞、敵軍の士気減退の手法は、現代兵法のルーツともいえる孫子の「戦わずして勝つ」という最大にして唯一といってもいい戦略を如何にして行うかという、歴史上の軍人達の見事なまでの知恵が感じ取れる。ほとんど軽くしか扱っていないが、興味をそそられるところである。是非もう少し深く取り扱っている書物を読んでみたくなった。