燃料電池。

化石資源の有限性を前提とした場合、我々は現行の社会に大きなダメージを与えないようにしながら、徐々に非化石資源の道を歩まなければならない。大きく分けるとマテリアルレベル・燃料レベル・エネルギーレベルにおける化石資源の代替物を見つけ出し、しかも経済性や利用時の質に関しても化石資源に近いレベルを達成しなければ、世界をそちらの方向に導くことは困難であると考えられる。
そんな中で、燃料に関して最も今一般レベルで注目されているのは燃料電池だろう。水素と酸素から水が出来るだけの反応で、温室効果ガスも有害ガスも一切排出しない。人々に与える印象がこれほどクリーンな技術もない。実際既に多数の自動車メーカーが開発に乗り出し、2002年にはトヨタとホンダが東京の公用車として燃料電池車を販売したことは大きなニュースとなった。
当時から、燃料電池車の普及に関して問題となるのは経済性と水素供給の二点であると言われてきた。環境問題に関連するどんな新技術においても、経済性が問題になることは避けられないので、燃料電池車の問題として特に考えなければならないのは結局原料となる水素をいかに供給するかという点についてだろう。水素ステーションの数の少なさという問題もさることながら、水素をどのように作り出すか、という点こそが最も重要な問題であると考えられる。
多くの所で既に指摘されているが、現状では水素のほとんどは実は天然ガスやナフサなどの化石資源から製造されている。この製造過程においてはかなりの高温が必要で、そのために化石資源の多くが高温を得る為に燃やされているというのが現状。つまり、結局化石資源に依存しているわけで当然ここで二酸化炭素も発生する。「水しか発生せずクリーン」なのはあくまで消費者が乗る車の中での話。燃料電池へのイメージ悪化を懸念して、どこのメーカーもこの話を大きくしない。
この対応策として今まで考えられていたのは、自然エネルギーを利用した水の電気分解による水素製造だった。自然エネルギーというのは、水力や風力、バイオマスエネルギーなどの自然由来で再生可能なエネルギーのことである。特に最近は太陽エネルギーを利用した水の電気分解が話題になった。これらを利用することが出来れば、水素供給に関してはかなりの環境負荷低減に道が開ける。
ところが今日更に期待感を高められるニュースがあった。http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/science/news/20050128k0000m040108000c.html家畜糞尿からベンゼンと水素を効率的に得るというこの新技術。ベンゼンを得ることが出来るという点でも素晴らしく実用価値の高い研究だが、バイオマスから水素をケミカルスとしてそのまま調達する技術はこれまであまり聞いたことが無かった。当然この製造過程はRenewableなものなので、実質の温室効果ガス排出は0に近い。これから実用化に向けた動きが始まるだろうし、是非ともその方向に進んでもらいたい。