共謀罪の論点。

共謀罪の新設を盛り込んだ、組織犯罪処罰法の改正案が審議入りしている。郵政民営化絡みの政局ばかりを追い続ける大手メディアの扱いは、ことの重大さを考慮に入れると明らかに小さいと言わざるを得ない。既にWEB上ではあちこちで反対運動が巻き起こっているが、ここで僕なりの見解を示したい。


共謀罪とは何か

WEB上の反対論は陰謀論めいたものが多くて、検索すればそのようなサイトが上位に来てしまい、そこで判断するのは極めてマズイ。原文も見ずに是非を論じるのは極めてマヌケな行為なので、僕は法律の専門家でも何でもないが、ひとまず法律(案)の原文を見る。
犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案[http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g15905046.htm]の第三条。
注目すべきところは、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の第六条への追加部分。

第六条の次に次の一条を加える。
 (組織的な犯罪の共謀)
 第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
  一 死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪 五年以下の懲役又は禁錮
  二 長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められている罪 二年以下の懲役又は禁錮

 2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、第三条第二項に規定する目的で行われるものの遂行を共謀した者も、前項と同様とする。

つまり、「懲役四年以上の罪になる犯罪をしよう」と共謀したら罪になるということ。ただしここに、「団体の活動として」「当該行為を実行するための組織により行われるもの」という条件がつく。


団体及び組織の定義

では、「団体」及び「組織」とは何か。組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織処罰法)の第二条には以下の通り記述がある。尚、web上でなかなかきちんとした法律全文が見つからなかったので、適当ではないかもしれないが[http://www.moj.go.jp/HOUAN/SOSHIKIHO/ORGCRIME/refer01.html]を参照。

 第二条 この法律において「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるものをいう。

要するに、
組織=指令によって一体となり行動する人の集まり
団体=共通の目的を持った人の集まりで、その目的を実現するための組織を持ち、その組織が何度も活動しているもの

ということだ。共謀罪を考える時にここは肝になる部分なので、きちんと押さえておかなければならない。


対象となる犯罪が多すぎる!?

以上をまとめると、共謀罪に該当するのは、「懲役四年以上の罪になる犯罪を行うための組織による共謀」であり、しかもそれが「その組織が属する団体の目的を実現するための活動」でなければならないということになる。因みに懲役四年以上の罪になる犯罪の数は五百を越え、中には法律改正の目的とあまり関係のない犯罪も含まれる。「全然凶悪犯罪に限定していない」という批判はこの点では妥当で有り得る。
しかし、この度の改正は「国際組織犯罪防止条約」[http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty156_7a.pdf]への署名が背景にあるとことに留意しなければならない。同条約の第二条に以下の記述がある。

 (b) 「重大な犯罪」とは、長期四年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪を構成する行為をいう。

このように国際組織犯罪防止条約において四年という期間が区切りに使われており、組織処罰法の改正案はこれを踏襲したものであると言える。故にこの批判は、心情的には理解できるが、単独では意味がないと僕は思う。


国際性不問は是か非か
さらにもう一つの批判として「『国際的な犯罪』に限定してないから全然目的と違うじゃん」というものがある。これに関してはまず国際組織犯罪防止条約の第三十四条を参照する必要がある。注目すべきはその第2項である。

第三十四条 条約の実施
 2 第五条、第六条、第八条及び第二十三条の規定に従って定められる犯罪については、各締約国の国内法において、第三条1 に定める国際的な性質又は組織的な犯罪集団の関与とは関係なく定める。ただし、第五条の規定により組織的な犯罪集団の関与が要求される場合は、この限りでない。

この部分を持ち出して、「条約で『国際的な性質とは関係なく定める』とあるからだ」という反論が可能で、これまた先程と同様に無意味な批判となる。
・・・と一見思えるが、本当にそうだろうか。ご覧の通り、上で扱った項には「第五条、第六条、第八条及び第二十三条の規定に従って定められる犯罪については」という限定条件がついている。そこで該当の箇所を見ると、このように書かれている。

第五条 組織的な犯罪集団への参加の犯罪化
 1 締約国は、故意に行われた次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
  (a) 次の一方又は双方の行為(犯罪行為の未遂又は既遂に係る犯罪とは別個の犯罪とする。)
   (i) 金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的のため重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意することであって、国内法上求められるときは、その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴い又は組織的な犯罪集団が関与するもの
   (ii) 組織的な犯罪集団の目的及び一般的な犯罪活動又は特定の犯罪を行う意図を認識しながら、次の活動に積極的に参加する個人の行為
    a 組織的な犯罪集団の犯罪活動
    b 組織的な犯罪集団のその他の活動(当該個人が、自己の参加が当該犯罪集団の目的の達成に寄与することを知っているときに限る。)
  (b) 組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪の実行を組織し、指示し、ほう助し、教唆し若しくは援助し又はこれについて相談すること。
 2 1に規定する認識、故意、目的又は合意は、客観的な事実の状況により推認することができる。
 3 1(a) (i)の規定に従って定められる犯罪に関し自国の国内法上組織的な犯罪集団の関与が求められる締約国は、その国内法が組織的な犯罪集団の関与するすべての重大な犯罪を適用の対象とすることを確保する。当該締約国及び1(a)(i)の規定に従って定められる犯罪に関し自国の国内法上合意の内容を推進するための行為が求められる締約国は、この条約の署名又は批准書、受諾書、承認書若しくは加入書の寄託の際に、国際連合事務総長にその旨を通報する。

第六条 犯罪収益の洗浄の犯罪化
 1 締約国は、自国の国内法の基本原則に従い、故意に行われた次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
  (a)  (i) その財産が犯罪収益であることを認識しながら、犯罪収益である財産の不正な起源を隠匿し若しくは偽装する目的で又は前提犯罪を実行し若しくはその実行に関与した者がその行為による法律上の責任を免れることを援助する目的で、当該財産を転換し又は移転すること。
   (ii ) その財産が犯罪収益であることを認識しながら、犯罪収益である財産の真の性質、出所、所在、処分、移動若しくは所有権又は当該財産に係る権利を隠匿し又は偽装すること。
  (b) 自国の法制の基本的な概念に従うことを条件として、
   (i ) その財産が犯罪収益であることを当該財産を受け取った時において認識しながら、犯罪収益である財産を取得し、所持し又は使用すること。
   (ii ) この条の規定に従って定められる犯罪に参加し、これを共謀し、これに係る未遂の罪を犯し、これをほう助し、教唆し若しくは援助し又はこれについて相談すること。
 2 1 の規定の実施上又は適用上、
  (a) 締約国は、最も広範囲の前提犯罪について1 の規定を適用するよう努める。
  (b) 締約国は、第二条に定義するすべての重大な犯罪並びに前条、第八条及び第二十三条の規定に従って定められる犯罪を前提犯罪に含める。自国の法律が特定の前提犯罪を列記している締約国の場合には、その列記には、少なくとも、組織的な犯罪集団が関連する犯罪を包括的に含める。
  (c) (b)の規定の適用上、前提犯罪には、締約国の管轄の内外のいずれで行われた犯罪も含まれる。ただし、締約国の管轄外で行われた犯罪は、当該犯罪に係る行為がその行為の行われた国の国内法に基づく犯罪であり、かつ、この条の規定を実施し又は適用する締約国において当該行為が行われた場合にその行為が当該締約国の国内法に基づく犯罪となるときに限り、前提犯罪を構成する。
  (d) 締約国は、この条の規定を実施する自国の法律の写し及びその法律に変更があった場合にはその変更後の法律の写し又はこれらの説明を国際連合事務総長に提出する。
  (e) 締約国は、自国の国内法の基本原則により必要とされる場合には、1 に規定する犯罪についての規定を前提犯罪を行った者について適用しないことを定めることができる。
  (f) 1 に規定する犯罪の要件として求められる認識、故意又は目的は、客観的な事実の状況により推認することができる。

第八条 腐敗行為の犯罪化
 1 締約国は、故意に行われた次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
  (a) 公務員に対し、当該公務員が公務の遂行に当たって行動し又は行動を差し控えることを目的として、当該公務員自身、他の者又は団体のために不当な利益を直接又は間接に約束し、申し出又は供与すること。
  (b) 公務員が、自己の公務の遂行に当たって行動し又は行動を差し控えることを目的として、当該公務員自身、他の者又は団体のために不当な利益を直接又は間接に要求し又は受領すること。
 2 締約国は、外国公務員又は国際公務員が関与する1 に規定する行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとることを考慮する。締約国は、同様に、他の形態の腐敗行為を犯罪とすることを考慮する。
 3 締約国は、また、この条の規定に従って定められる犯罪に加担する行為を犯罪とするために必要な措置をとる。
 4 1及び次条の規定の適用上、「公務員」とは、その者が職務を遂行する締約国の国内法において定義され、かつ、当該締約国の刑事法の適用を受ける公務員その他の公的役務を提供する者をいう。

第二十三条 司法妨害の犯罪化
 締約国は、故意に行われた次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
  (a) この条約の対象となる犯罪に関する手続において虚偽の証言をさせるために、又は証言すること若しくは証拠を提出することを妨害するために、暴行を加え、脅迫し若しくは威嚇し又は不当な利益を約束し、申し出若しくは供与すること。
  (b) 裁判官又は法執行の職員によるこの条約の対象となる犯罪に関する公務の遂行を妨害するために、暴行を加え、脅迫し又は威嚇すること。前段の規定は、締約国が裁判官及び法執行の職員以外の公務員を保護する法律を定めることを妨げるものではない。

長々した引用になったが、要するにこれらの箇所で定められているのは、「組織的な犯罪集団への参加、マネーロンダリング、公務に関する腐敗、当該条約に関する司法への妨害が犯罪になるよう法を整備する」ということだ。そして繰り返しになるが第三十四条では「これらの犯罪に関してはその国際性とは無関係に犯罪とするよう法を整備する」となっていた。つまりこれを先ほどの文脈に当てはめて考えると、この条約では、国内でこれら以外の行為を犯罪とする際に、その国際性を無関係とするかどうかについて言及していない、という結論が導き出せる。
従って、今回の法律案で懲役4年以上の罪になる犯罪行為の共謀全てについてその国際性を問わず共謀罪の対象としているのは、少なくとも国際組織犯罪防止条約に基づくものではないと言えるのではないか。ならば、この段落で最初に挙げた「国際性を問わないのはおかしい」という批判は成り立ちうるはずだ。ここがこの法律案についての大きな論点の一つだ。


市民団体や労組は対象内?外?
そして何よりもこの法案が批判の的とされているのは、「市民運動労働組合運動までもが共謀罪の対象になるのではないか」と危惧されているからである。おそらくここが多くの人にとって一番の関心事であろう。
まず念頭に置くべきなのは、かなり上で述べたいくつかの定義である。改めて以下に記す。
組織=指令によって行動する人の集まり
団体=共通の目的を持った人の集まりで、その目的を実現するための組織を持ち、その組織が何度も活動しているもの
共謀罪に該当する共謀=懲役四年以上の罪になる犯罪を行うための組織による、その組織が属する団体の目的を実現する活動の一つである犯罪の共謀

さて、まずはそこらの左系の反対論で言われている「酒場での愚痴も罰せらる」という話は明らかに的外れであることが分かる。酒場での愚痴は、上の定義に該当する「組織」によるものでもなく、上の定義に該当する「団体」も関与しておらず、ましてや「団体」の目的を実現するための活動でもないからである。これは聴くに値しない陰謀論であると瞬時に判断できる。
しかし市民運動や組合運動はどうかといわれると、少し話はややこしくなる。これらはこの法律における「団体」に該当するだろう。従って焦点は、仮に懲役四年以上の罪になる犯罪を行うための共謀が行われたとして、それが「その犯罪を行う為の組織によるものなのか」、そしてそれが「団体の目的を実現する活動であるのか」、ということになる。ここからはかなり微妙な話になってくるので、個別の事案に関してでないとなかなか判断しづらい。そこで「自由法曹団」のサイト内のページ[http://www.jlaf.jp/iken/2004/iken_20040115_02.html]で示されている例について考えてみたい。

その1 マンション建設反対運動も


ある町で緑の多い傾斜地を開発して地下4階地上3階の地下室マンションを建築する計画がもちあがりました。近隣は、高さ10メートルまでの住宅地域です。突然の計画発表に対し、住民の中に反対運動が広がりました。
一方、建築業者は、安全・安心街づくり条例に基づいて建築するマンションの防犯設備について所轄警察署に設計図を提出して相談しました。警察は、マンションの出入り口と四方に防犯カメラの設置を指導しました。
住民の反対運動にもかかわらず地下室マンション建築計画は進行し、工事着工予定が示されました。話し合いを拒否された住民と、建築を強行しようとする業者との間で対立は激化しました。住民は、反対運動の方法を相談しました。建築資材の搬入を阻止する実力行使も検討しました。業者から防犯設備について相談を受けていた警察は、住民の反対運動に注目していました。このため、住民の中にその動向を警察に通報してくれる協力者を作って情報を収集していました。
業者の資材搬入日が決まると住民らは、相談して、大量動員してピケットをはり、資材搬入を実力阻止することを決めました。これが住民の中の協力者によって警察に伝えられました。
資材搬入の当日早朝、住民がピケのために家を出ようとしたとき、全員が組織的威力業務妨害共謀罪組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律3条7号)で逮捕され、反対運動は挫折しました。そして、地下室マンションは、業者の計画通りに建築されました。

さて、このような住民の集まりは、「マンション建設を止めよう」という共通の目的を持っており、しかも(例では明示されていないが常識で考えて)その活動の一つとして建設業者との話し合いをもとうとする行為を繰り返す組織を持っていることから、当該法律における「団体」に含まれると考えられる。問題は、資材搬入実力阻止の共謀が、阻止を行う為の組織によるもので、しかも団体の活動として行われたものなのか、という点だ。初めに結論を言うと「解釈次第で該当し得るが、おそらく逮捕はされない」という判断しか下せないのではないだろうか。
まずは処罰対象となる組織かどうかという点について。何度も言うが、「組織」は「指令によって行動する人々の集まり」であり、処罰対象となる条件は「懲役四年以上の罪になる犯罪をする為の組織であること」である。従って、もし反対運動団体による「実力阻止すべし」という指令によって、そのための組織が作られたとしたら、この条件はクリアすると考えられる。
そしてもう一つの「団体の活動として」という条件。実はこれがよくわからない。一つ言えるのは、この法律案には、団体の目的が犯罪であることの必要性は明記されていないこと。故に、反対運動団体の目的が実力阻止でないからといって、すぐに逮捕を逃れられるものではない。しかしだからと言って、「実力阻止」が果たして「建設阻止を実現する為の活動として」なのかどうかと言われれば、よくわからない。一つ前の段落で挙げたように、団体から組織に「実力阻止すべし」という指令が下ったのだとしたら、「活動として」と言えるかもしれない。だが結局問題なのは、「どっちなのだろうか」ということではなくて、「判断しづらい以上解釈次第で共謀罪の対象となり得る」ということだ。反発が多いのもここだ。


現行犯逮捕徹底の方が「陰謀」に適うのでは?

ここで一つ考えたいのは、仮に監視社会・警察国家化という「陰謀」を企む者達がいたとして、そいつらがなぜ共謀罪を新設せにゃならんのかということだ。上の例で言うなら、「住民がピケのために家を出ようとしたとき」に共謀罪で逮捕するよりも、実際に実力阻止を始めた瞬間に威力業務妨害罪の現行犯で逮捕した方がより彼らの目的に適うのではないだろうか。
マンション建設業者から相談を受けた警察が「住民がより実力阻止に踏み切らざるをえない状況を作ってください」と応え、確実に現行犯で逮捕する。この方が「陰謀」ぽい。共謀の証拠をわざわざ揃えたりするよりコストも小さくて済むし、罪も重いし、自首する隙も与えない。僕としては陰謀を企む者達がわざわざ共謀罪で逮捕するメリットを特に感じないのだ。
以上のことから、先述の「解釈次第で該当し得るが、おそらく逮捕はされない」という結論になる。


なにが重要なのか

そのような結論に至るのであれば、法律の中身を批判するとすれば要は「陰謀論云々で反対されてしまう条文じゃダメ」ということなのではないだろうか。従ってこの法律案は以下の点でもう少し煮詰める必要があると思う。
・国際的な性質と無関係である点を改めるか、無関係とすることの正当性を説く
・運用時にきちんと歯止めとして機能するように「団体の活動として」という表現を改める

以上がこの法律の中身の問題点とも言うべきところだと考えられる。しかし問題はこれだけではなく、共謀罪にはもうひとつ大きな論点が存在する。キーワードは「行為」だ。


合意は行為か

これまでの刑法体系では、行為が起こって初めて犯罪が成立した。未遂罪は犯罪行為に至るための行為があって成立し、共謀共同正犯は実際になされた犯罪行為の共謀者が対象になる。これに対しこの度の共謀罪は、犯罪行為の共謀があった時点で成立する。「合意による犯罪成立は刑法の原則を逸脱している」「合意も『合意する』という行為だ」という意見がある。
しかし、いずれにしてもこれまでよりも明らかに意思決定段階で犯罪が成立しうるという点で、これまでの刑法とは違うと言える。この問題に関連して、審議会では次のような説明がなされている。

用語の意味について若干御説明いたしますと,「共謀」というものは,二人以上の者が特定の犯罪の実行を合意することでありますが,共謀罪が成立するためには,単に漠然とした相談程度では足りず,目的,対象,手段,実行に至るまでの手順,各自の役割等,具体的な犯罪計画を現に実行するために必要とされる各種の要素を総合的に考慮して,具体性,特定性,現実性を持った犯罪実行の意思の連絡があることが必要であり,かつ,それで足りると考えられるものであります。なお,要綱(骨子)第一において用いられております「団体の活動として」ですとか,「不正権益を得させ」といった組織的犯罪処罰法第3条等において用いられている用語の意義につきましては,当該法律におけるものと同様と考えております。

これを我が国で必要とするかということについて考えますと,共謀だけで犯罪を成立させるということにつきまして,こういうオーバート・アクト,その共謀に基づいた何らかの行為を要求いたしますと,成立が他の共謀以外の事情によって確認できるという意味で明確になるということはそのとおりでございますが,それはある意味で共謀の存在を立証するための法定証拠みたいな位置付けになってしまうのではないかなと考えまして,そういう意味でオーバート・アクトの要件を入れるということになりますと,なかなか我が国の法制にはそぐわないのだろうと,自由心証主義の中で十分な立証を行うことによってそこは確保していくということが我が国のやり方なのだろうというのが,この要件を要綱(骨子)で採用しなかった理由の一点目でございます。
 そのほか,我が国の現行法上,共謀罪,陰謀罪,かなりの数規定がございますが,いずれもこのようなオーバート・アクトの要件を入れたものはございません。それらの犯罪との整合性がどのようになるのかということがございます。
 そして,一つ特に問題になり得るかなというのは,立証上の問題の意義が大きいということにいたしますと,共謀自体は証拠上非常に明白であると,例えばたった今し方までやくざ者の大幹部が共謀しておりまして,あと3時間後に相手の組に突入しようと共謀を遂げた直後に,一人の者が警察に通報してきたとしましょう。そういたしますと,共謀の立証はその者の供述で完璧にできますけれども,外的行為は何もない,そういう事態が生ずるわけでありまして,そのようなある種極端な例かもしれませんが,そのような場合にはオーバート・アクトはちょっと余計な要件だという位置付けになってしまうのではないかなと思っておるところでございます。大体そんなようなことを考慮いたしまして,この要綱(骨子)では外的な行為の要件ではなくて,組織的な犯罪集団の関与の要件を採用しておるということでございます。
 また,組織的な犯罪集団の関与の要件を採用した結果,団体の活動として当該行為を実行するための組織により実行するということの共謀が遂げられるということは,相当具体的な犯罪計画ができておるということと表裏でございます。したがいまして,それが立証できるということは証拠上の合意の存在が確実に認められる場合であるということで,濫用防止といいますか,そういう観点からも十分な歯止めになっているだろうと思っております。

「合意」があった時点で犯罪成立とする理由として
・わが国の法制にそぐわない
・緊急の事態では行為発生による立証を待ってられない
・団体や組織云々という文面により歯止めがかかっている

という点が挙げられている。上の議論に即して言えば、「合意は行為ではないが、しかし3つの理由で合意段階で犯罪を成立させるものである」という立場に立っているように思える。


「少し拡がる」
この3つの理由は、きちんと組み合わせると確かに整合性があるように思える。従って僕はあまりここを批判する立場にはないのだが、少なくとも「合意」による犯罪の成立を認めるようになること、つまり構成要件となる範囲が少し拡がることを、僕らはきちんと認識しておかなければならないのじゃないだろうか。「合意」が「行為」かそうでないかという件についてはどこかで誰かが議論してくれたらいいんだけど、あまり僕ら一般市民には関係のない話のような気がする。要は少し拡がったことをどう思うか、ということに尽きると思う。ここが、自分たちの社会の有りように関連する話として考えるべきところだろう。
さあみんなで考えよう。




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