総務省の回答はどうなるか。

昨日のネット選挙運動に関する話の続き。
Miyadai.com Blogでの宮台真司のキレっぷりは多分ネット選挙運動の議論を煽るためにやってるネタなので(あと総務省への積年の恨みもあるかも)あんまりおいそれと素朴に乗っかってしまうわけにはいかないとして、少なくとも僕が問題にしたかったのは、自民党のやってることが矛盾してるとかいうことよりもむしろ総務省の役人の動きと民主党のポジションなのだ。民主党のポジションは昨日転載したメルマガを見れば大体判るので、ちょっと総務省の動きについて考えたい。
考えるべき具体的な事例として、
(1)山本一太議員のように「今回の候補者ではない参院議員が、今回の候補者の選挙運動について候補者が特定できる形のレポートを事後報告する」というパターン
(2)民主党の公式サイトのように「党の公式サイトで候補者の遊説予定を掲示する」というパターン
(3)「党の公式メルマガで候補者の遊説予定を知らせる」というパターン
を挙げておく。今のところ自民党の「線引き」は(1)と(2)・(3)との間で統一されている。
公選法に抵触するためには、それが「選挙運動」であり、尚且つ「文書図画」を、「頒布・掲示」しているという条件を全て満たさなければならない。そこで、以下順に見てみる。


■選挙運動
総務省の指摘でも公選法の第142条に抵触するとして「選挙運動」って言葉が使われていたし、僕も昨日のエントリで「5万歩譲って『選挙運動』に当たるとして」みたいなことを書いたんだけど、公選法をよく見ると、これらが仮に選挙運動に該当しなかったとしても、第201条の5で公示後は政党はビラ頒布などの政治活動をしてはいけないことになってるようだ。

(総選挙における政治活動の規制)
第201条の5 政党その他の政治活動を行う団体は、別段の定めがある場合を除き、その政治活動のうち、政談演説会及び街頭政談演説の開催、ポスターの掲示、立札及び看板の類(政党その他の政治団体の本部又は支部の事務所において掲示するものを除く。以下同じ。)の掲示並びにビラ(これに類する文書図画を含む。以下同じ。)の頒布(これらの掲示又は頒布には、それぞれ、ポスター、立札若しくは看板の類又はビラで、政党その他の政治活動を行う団体のシンボル・マークを表示するものの掲示又は頒布を含む。以下同じ。)並びに宣伝告知(政党その他の政治活動を行う団体の発行する新聞紙、雑誌、書籍及びパンフレットの普及宣伝を含む。以下同じ。)のための自動車、船舶及び拡声機の使用については、衆議院議員の総選挙の期日の公示の日から選挙の当日までの間に限り、これをすることができない。

だから「選挙運動に該当するかどうか」てのは、少なくとも今回の民主党の件を考える上では本来はあんまし重要じゃない。ただここでは総務省の見解を吟味したいので、「総務省民主党のメルマガの内容が『選挙運動に該当する』と判断した」という事実を押さえておきたい。
上記の(1)のパターンについては選挙運動という解釈が出来るかどうかはよくわからない。そもそも、公選法には「選挙運動」という言葉の定義は存在しない。色々調べるとどうやら過去の判例から「特定の選挙で」「特定の候補者の」「当選を目的として」おこなわれる行為を指すことが多いらしい。(1)のパターンでは選挙も候補者も特定されているが、内容自体はあまり新聞記事と変わらないものが多い。
問題になるとすれば「片や選挙に直接関係ない参院議員、片や候補者の所属する政党」という送信元の違いと、内容における「事前か事後か」の違い。
総務省の指摘は民主党のメルマガの内容が選挙運動に該当するということだった。もし民主の質問状に対して「山本一太議員らのサイトは抵触しない」と言い張るのなら、「送信元の違い」あるいは「事前か事後か」というところに線引きをしたことになる。ここが重要。


■文書図画
次はウェブ上の文章が公選法における文書図画に該当するかどうかについて、一応押さえておく。
これに関しては公選法を参照していても何の材料も得られないので、96年に新党さきがけが出した質問状に対する自治省の回答を参照してみる。なお、民主党の江田五月参院議員の公式サイトから全文が閲覧できる[http://www.eda-jp.com/pol/inet/renketu.html]。それによると、ウェブ上の文章が公選法の文書図画に当たるかどうかという問いに対する回答は以下の通りだ。

公職選挙法の「文書図画」とは、文字若しくはこれに代わるべき符号又は象形を用いて物体の上に多少永続的に記載された意識の表示をいい、スライド、映画、ネオンサイン等もすべて含まれます。したがって、パソコンのディスプレーに表示された文字等は、公職選挙法の「文書図画」に当たります。

「んなもん公選法のどこにも書いてないぞ」と言えばそれまでで、だからこそネット選挙運動解禁のために公選法を改正しなくちゃいけない。
でも今日の僕の意識はあくまで(1)(2)(3)の違いにあるので、要するに「総務省的には全部文書図画に該当する」ということでこの問題は終えておく。


■頒布・掲示
次は「頒布・掲示」ついて。上に同じく自治省の回答は以下の通り。

公職選挙法の「頒布」とは、不特定又は多数人に文書図画を配布することをいい、従来より、文書図画を置き、自由に持ち帰らせることを期待するような相手方の行為を伴う方法による場合も「頒布」に当たると解しております。また、「掲示」とは、文書図画を一定の場所に掲げ、人に見えるようにすることのすべてをいいます。したがって、パソコンのディスプレーに表示された文字等を一定の場所に掲げ、人に見えるようにすることは「掲示」に、不特定又は多数の方の利用を期待してインターネットのホームページを開設することは「頒布」にあたると解しております。

上の回答に沿うと、メルマガ配信は「一定の場所に掲げ」てないから明らかに「掲示」ではない。んで読者は「不特定」ではないし、「文書図画を置き、自由に持ち帰らせることを期待するような相手方の行為を伴う方法」でもない。すると「読者が多数かどうか」なんていう非常に曖昧な判断をすることになる。にもかかわらず総務省は「メルマガ配信=頒布」という結論をアッサリ下したわけだ。


■やっぱり自民党の顔色をうかがってんの?
このように、もし仮に総務省が(1)について「抵触しない」と回答するならば、既述のような極めて微妙な点について判断し、その判断基準の正当性・正統性を説明することになる。
僕が問題にしたいのは、ことはこんなに微妙なのに、なぜ全てが自民党内の見解と見事に一致してしまうのかというところだ(しつこいようだが、もちろんあくまで総務省が「(1)は抵触しない」と判断するなら)。宮台真司が「総務省自民党ケツナメぶり」というそれだ。官僚個人の性質によるものならまだしも、政権交代のない状態がそれを生んだとしたら、やっぱり政権交代の必要を感じる。
なお、民主党のメルマガで言及されていた「民主党のみならず自民党を始め各党がこうした形で関係記事を掲載してきており、自民党も4月の補欠選挙、6月の東京都議選でも同種の記事を掲載しております」という件についてまで、総務省自民党の見解に沿う判断を示すのであれば、「補欠選挙・都議選と総選挙」という違いを持ち出さなくてはならない。でも、公選法ではこれら全てにおいて、それが選挙活動であろうが政党・政治団体による政治活動であろうが「文書図画の頒布」を禁じている。多少条件が変わるが、今回の件で言えば全て禁止の対象となっている。
いずれにせよ、インターネット選挙運動は、公選法の「選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期することを目的とする」という法理に適うもの。
とりあえず、総務省の回答に注目したい。