ジャトロファの可能性。

最近、バイオディーゼル業界(ひたすら地味な業界だが)では、ジャトロファヤトロファ/ナンヨウアブラギリ)という油糧作物が注目を集めている。背景にあるのは、バイオマスエネルギー普及拡大でとかく問題視される、食料との競合、そして食料の価格高騰だ。
ジャトロファは東南アジアやアフリカで栽培されていたり自生してたりする油脂収量の高い作物。乾燥や高温にも強くて、荒地でも生育可能。確かにエネルギー作物として見るなら適している。ただジャトロファが注目されているのは、そういう理由によるというよりもむしろそれが非食用だからだ。食料と競合せず、故に価格価格高騰を避けられる、というわけだ。
昨今の食料価格高騰がバイオマスエネルギー普及拡大に伴う不可避な現象だったのかについては、面倒臭いので横に置いておく。で、最近疑問に思っているのが、ジャトロファが本当にそんなに「良い」ものなのか、ということだ。
そもそもなぜ食料vsエネルギーの図式で様々な食料の価格が上昇するのかというと、エネルギー利用可能な作物Aの需要増による価格高騰→農家が他の食用作物からA生産へ転換→他の食用作物が供給減で価格高騰という図式が発生するからだ。バイオエタノールでいえば、Aがトウモロコシで、そのせいで小麦やら野菜全般の価格が上昇する。だから、「価格高騰」といっても、エネルギー利用される作物そのものと、それに類する他の作物という、2つの段階があるということを頭に入れとかないといけない。
非食用だから食料と競合しない、というのは実にわかりやすい理屈だ。もちろん、ジャトロファは現在既に自生しているから、それをバイオディーゼルに利用しようというなら確かに食料との競合問題は起こらない。ただ、最近の動向では、ジャトロファをエネルギー作物として栽培しようという話になっているのだ。各国で予想される優遇措置によってジャトロファのエネルギー利用がビジネスとして成立するようになって、しかもそれが大豆やらアブラヤシやらよりも農家にとってより収益が上がるならば、結局大豆やらアブラヤシの供給減が引き起こされて、大豆油やパーム油、あるいは他の食料の価格高騰は必至だ。
もう一つ違った視点からも見てみる。「食料との競合」という時に本質的かつ長期的には何が「競われて」いるのかというと、それは土壌だ。土壌は陸上バイオマス資源の大元であり、有限だ。つまり、目の前に作物を育てるに適した土地があるとして、そこに食用の作物を植えるかエネルギー作物を植えるかという選択を通して、土壌で人を養うか機械を養うかという選択をするわけだ。しかもそう遠くない未来には食糧問題が起こる可能性が高いのだ。機械しか「食う」ことの出来ないジャトロファを、わざわざ有限の土壌に植えるなどという選択を誰がするんだろう。他方、食用の油糧資源ならまだ、できる限り食用利用した後で、廃油脂をバイオディーゼルにすることが有り得るのだ。
短期的には非食用という特性が有利に働くから、バイオディーゼルとして利用するのも価値あることだろうと思う。でも上記の視点を踏まえるならば、ジャトロファの利点は「非食用」ではなくて「荒地に強い」という点であるハズだ。食用作物が育たないような場所でのみジャトロファを栽培して、エネルギーへ転換する。そうすれば、本当の意味での「食料との競合」も避けられる。
同じような理由で、今拡がっている新油のバイオディーゼル転換も本当なら単なる「練習」であるべきだ。長期的には、「廃油脂からのバイオディーゼル製造なら有り得るかな」という程度だと僕は考えている。だとすれば、バイオディーゼルへ利用できる油脂量は単純に「世界の食用油脂消費量の何割か+非食用油脂量」となる。多分これを完全にバイオディーゼルへ変換したとしても、代替すべき軽油消費量の1%に届くかどうか、というところだろう。必然的にバイオディーゼルは極小規模か低濃度での利用となる。
敢えて言えば、バイオディーゼルとは「その程度のもの」なのだ。であればこそ、今の流れのまま食用作物栽培可能な農地でジャトロファを栽培して、食料価格高騰と南側地域の貧困拡大を引き起こす可能性については十分に吟味して、慎重になるべきだ。