公益通報者保護法のどこがダメなのか。

公益通報者保護法のどこが問題なのか、という点について具体的に考えたいと思います。およそ次の四点にまとめることが出来ると思います。
一、違法行為に限定されている。しかも対象となる法も足りない。
同法第二条によると、保護対象となる「通報対象事実」の定義は「刑法、食品衛生法証券取引法、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律、大気汚染防止法廃棄物の処理及び清掃に関する法律個人情報の保護に関する法律、及び国民の生命や身体などの保護にかかわる法律に違反するもしくはその可能性のあるもの」とされている。すなわち「モラル違反」だとか言われる場合に関してはこの法の適用外となる。具体的には、株主でない暴力団への利益供与などがこれに当たる。また、税法や公職選挙法政治資金規正法などは含まれていないため、政治家スキャンダルなどは「被害を受けるのは消費者でなく国である」という理由で公益通報とされず、告発者は一切保護されない。
二、外部告発を認める条件が厳しすぎる。
同法第三条によれば、公益通報は、
  イ.まず第一に勤務先に対して行うことが優先され、
  ロ.次に行政機関で、
  ハ.「それでもダメそうな場合」は第三者
に通報するように定められている。まずこの「それでもダメそうな場合」に該当する条件が厳しすぎる。主な項目としては、「勤務先から不当な扱いを間違いなく受けそうな場合」「勤務先が証拠隠滅などをする恐れがある場合」「勤務先から正当な理由無く通報しないよう要求された場合」「勤務先に通報しても20日以上放置された場合」などが挙げられる。この問題点によりどういう影響が予想されるか。それは企業が形だけ内部通報制度(ヘルプライン)を作り、通報者がいきなり行政機関や外部機関への通報をすることを防いだ上で、尚且つヘルプラインを通した通報に対する処置をあいまいにとることで「それでもダメそうな場合」に該当しないようにする、ということ。さらに、通報者はヘルプラインを通さずに外部機関へ通報する場合、「勤務先から不当な扱いを間違いなく受けそう」ということを証明しなければならない。こんなことは極めて稀なケースである。告発内容が真実であるという証拠があるならばまず第三者への通報しても通報者は保護されるべき。
三.通報者に対する保護規定が弱い。
第三条から第五条では、通報者に対する解雇・労働者派遣契約解除・その他の不当な取り扱いを禁じ、無効としている。問題となるのは「その他の不当な取り扱い」である。通報者が職場で間違いなく起こるであろう「村八分」的扱い、精神的苦痛、さらにこれらにより退職に追い込まれる、といった事柄がきちんとこの法の適用範囲内に収まるように定めなければならない。また、これらの事態が起こらないためにも下に挙げるような補足が必要。さらに、第一条の「公益通報者」の定義によれば、取引先の従業員などが告発しても保護対象とならない可能性が高い。
四.企業のヘルプラインや行政機関に対する規定が全くない。
上述の通り、通報者が、通報後の扱いについて不安を抱かないようにするためにもこれらの取り決めは不可欠である。
以上が主な問題点だと言えると思います。しかし法案が通ってしまった以上はなんとか法理に合った適用がなされるよう祈るしかありません。また、付帯決議でもいくつかの不備について指摘がなされているため、今後これらの発展を注視していきたいと思います。



■参考■
 ・消費者の窓
 ・PISA(公益通報支援センター)ホームページ
 ・トーマツ企業リスク研究所
 ・インテリジェンスの転職支援
 ・コンプライアンス・ダイヤル株式会社