非米同盟 (文春新書)作者: 田中宇出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2004/08/21メディア: 新書購入: 2人 クリック: 5回この商品を含むブログ (6件) を見る

田中宇氏は、ウェブ上を駆けずり回って集めた情報を基にした国際情報の分析を自身のウェブサイト(http://tanakanews.com/)にて行っているほか、国際情勢に関する独自の解説メールニュースを配信していることで有名な人物である。
本著でも同様に、ウェブ上で集めた情報から国際情勢の流れを分析し、読者へと伝えてくれる。その流れとは、一言で言えば単独覇権から勢力均衡への道である。すなわち、イギリスからアメリカへと受け継がれた単独覇権の形が終わりを迎え、EUにおけるフランス・ドイツ、ユーラシアにおけるロシア・中国・インド、さらに南米のブラジルといった大国がアメリカと同等の力を持つことによってバランスオブパワーが達成されるというものである。イラクにおける枚挙に暇が無い失政や外国人締め出しとも取れる過剰な入国管理、増え続ける双子の赤字などによる国力の低下は明らかで、アメリカの長期的没落傾向はもはや疑いようの無い流れであり、この話自体は特に目新しいものでもないが、著者によると、表層では単独覇権主義者が権力を牛耳っていると見受けられるアメリカにおいても、実は水面下ではあるが着実にその動きが進んでいるというのである。
イラクにおけるアメリカの失政の結果として出てきたものは「アラブ社会やテロリストからの反発を余計に煽ったこと」と「国際社会からの信用を失ったこと」である。前者はネオコンタカ派の単独覇権主義者が意図して得たもので、これによりアメリカ国内のシステム循環を作動させる狙いがあるものであろう。しかしながら後者の結果によりアメリカ離れを招き、それ故イラクにおけるアメリカの占領政策は明らかに失敗であるというのが僕の考えだった。
ところが著者によると、この失敗こそが国際協調路線を望む者たちが初めから意図して得た結果であるというのだ。パウエルと初めとするこの勢力は、単独覇権政策を派手に失敗させることでアメリカを自滅させてアメリカ以外の大国が多極的に覇権を握ることを考えているという説である。そのハイライトがパウエル演説で、パウエルは後ですぐにバレるようなでっち上げを敢えて連発することでフランス等が反発することを目論んでいたというのである。しかも著者は、理想派単独覇権主義としてイラク情勢混迷の張本人となったネオコンが実は国際協調路線側の人間達の手先であり、だからこそ数々の失政にも拘らずネオコンが依然として政権内の中枢を占めているという可能性をも指摘している。俄かには信じがたい話だが、彼がソース付きで挙げている情報は確かに彼の説を補強するものになっている。
ただ、それが意図的なものであろうが非意図的なものであろうが、日本が取るべき道は同じである。中国やロシアを初めとした近隣の諸国との関係を親密なものとし、常にアメリカなどの大国と対峙しうるフリーハンドを増やすことに専念するべきである。その意味で、中国との関係をやたらと悪化させたがっているとしか思えない現首相にはがっかりせざるを得ない。ましてやこの間のように、国連で難民認定された人たちに国外退去を命じるなど愚策中の愚策である。非米の流れの中で未だにアメリカばかりの方を向いて来た結果、もはやほとんど身動きが取れなくなってしまっているのが現状だ。「反米」ではない「非米」の道は、これからの日本の外交を見る上で欠かせぬ視点となる。
他にも、日本ではほとんどニュースとして流れてこない東欧や旧ソ連諸国の歴史と現在の情勢についても色々と記されていて、例えば昨年の学校占拠事件についても色々と考える手助けとなる。
この本に書かれている内容は、大手メディアがタレ流す報道だけを見ていれば陰謀論めいたものに聞こえるかもしれない。しかしながら例えば昨年の8月に発行された本書のなかで、以下のようにウクライナの選挙の動向をすでに言い当てている辺りから考えても、単なる勘繰りで済まされる話でもない。

 ソロス自身は、グルジアの次はウクライナで市民組織を動員した政権転覆を狙っていると指摘されている。ウクライナでは2004年10月に選挙があり、これまで10年間政権の座にあったクチマ大統領は満期で辞任し、後継者として首相のヤヌコビッチを当選させようとしている。これに対し、市民運動が推す若手の改革派ユシチェンコ(元首相)が対抗馬として立候補する予定で、世論調査ではユシチェンコが有利だが、選挙で不正が行われてヤヌコビッチが勝つのではないかと懸念されている。 ソロスは、すでにセルビアグルジアで成功した不正選挙を逆手に取った政権交代を、ウクライナでも実施しようとしている。
<中略>
 ウクライナでは2004年4月、地方選挙が行われたが、その監視をした欧米のグループが選挙不正があったと訴え、アメリカ政府は「10月の大統領選挙で再び不正が行われないように望む」という声明を発表した。グルジアの政権転覆と同じ筋書きが、ウクライナでも始まっている。